10年以上前に完済した取引によって生じた過払い金は時効?
10年以上前に消費者金融会社に一度完済し、その後しばらくして、また契約して借入を再開し現在まで貸し借りを繰り返しています。
消費者金融会社は「10年以上前に完済した取引によって生じた過払い金は時効だ」と言っています。本当でしょうか?
<例>今から11年前に完済し、その完済時点で過払い金が30万円生じる。その後、今から9年前に50万円再借入。
今から11年前に生じていた過払い金30万円は時効によって消滅し、利息制限法によって引直し計算できるのは、今から9年前の50万円再借入後の取引分だけ?
見解
まず、確認ですが、消費者金融会社との利息制限法を超える取引で「完済」した場合、「高すぎる金利で払い終わっている」わけですから、完済した時点で、当然、過払い金が生じています。
そして、消費者金融会社は、その完済時点からすでに10年以上経っているのであれば、完済時点で生じていた過払い金債権を10年間放置したわけだから、過払い金債権は時効によって消滅(民法第167条1項)していると主張してきます。
民法第167条1項「債権は、十年間行使しないときは、消滅する。」
消費者金融会社の主張するとおり、本当に時効で消滅するのでしょうか?
上記の<例>でいうと、30万円の過払い金債権は10年間放置していたので、消滅するのか・・・?いや、その過払い金30万円は、計算上、今から9年前に 再借入した50万円の返済に充てられ、50万円借入時の残高は20万円となるのか・・・?そうなれば、その後の取引によって過払い金が生じる時期も早くな るし、過払い金額も高くなるのだが?(*過払い利息は計算がややこしくなるのでここでは省略しています)
この点については最高裁の裁判例(最高裁平成20年1月18日判決)があります。後に少し簡略化した裁判例の要旨を挙げますが、まずイメージで言うと、
消費者金融会社との取引は、1つの契約に基づいて何度も貸し借りが繰り返される。そして、契約によると、何度も繰り返される貸し借りは、各貸し借りの都 度、まとめて残高計算されることになっている(たとえば、50万円を借りて20万円返した時点で「残高30万円」、その後10万円を借りた時点で「残高 40万円」、その後15万円を返した時点で「残高25万円」(利息は省略しています)・・・というように、最初に交わした契約によって、貸し借りの都度、 まとめて残高計算がされることになっている)。
ということは、
完済前の契約と再借入時の契約が全くの別契約といえる場合
完済時に生じた過払い金は、別契約でなされた再借入時の借入金とは、まとめて残高計算されない。
上記の<例>の場合、今から11年前に生じていた過払い金30万円は、別契約でなされた再借入時の借入金50万円とまとめて残高計算されない。なので、過 払い金30万円は借入金の返済に充てられることなく、過払い金債権としてそのまま残り、再借入金50万円の残高は50万円。
そして、過払い金債権30万円は10年間行使されなかったならば、時効によって消滅する(ただし、不法行為などその他の法律構成によって時効消滅を争う手だてはあります)。
完済前の契約と再借入時の契約が同じ契約といえる場合
完済時に生じた過払い金は、同じ契約といえる再借入時の借入金とまとめて残高計算される。
上記の<例>の場合、今から11年前に生じていた過払い金30万円は、同じ契約といえる再借入時の借入金50万円とまとめて残高計算される。なので、過払い金30万円は再借入金50万円の返済に充てられ、再借入時の残高は20万円となる。
よって、その後の取引によって、過払い金が生じる時期が早くなり、過払い金額も高くなる。
では、完済前の契約と再借入時の契約が全くの別契約といえるのか、同じ契約といえるのかは、どのように判断するのか?
最高裁は、以下のような実質的な事情を考慮して判断すると述べています。
- 過去に完済した取引の長さ
- 完済後再借入までの期間
- 完済した取引の基本契約書の返還の有無
- 完済した取引で使用されていたカードの失効手続の有無
- 完済後再借入までの期間における貸主と借主との接触の状況
- 再借入がなされることになった経緯
-
完済した取引と再借入後の取引の各基本契約における利率等の契約条件の異同等
最 高裁は、1~7の事情を考慮して、過去の取引が完済されてもこれが終了せず、過去に完済した取引と再借入後の取引とが「事実上1個の連続した貸付取引」で あると評価することができる場合には、過去の取引で完済した時点で生じていた過払い金を再借入後の借入金の返済に充てることができるとしています。
(注意)再取引時点で契約書を交わさずに、単に借入を再開した場合は、完済時の過払い金を再借入後の借入金の返済に宛てることができる可能性が高いです。
これは、再取引時点でそもそも再契約がなければ、再取引分も最初の契約に基づいて行われたと考えられるので、最初の契約に基づいてまとめて残高計算すべきだからです。